北海道道東 × アドベンチャートラベル

消費する旅から自己成長の旅へ、道東アドベンチャートラベル

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なぜ、あなたは旅に出るのでしょうか? 見たことのない景色を見たいから、美味しいものを食べたいから、疲れを癒すため、家族サービスのため、ローカルの人との出会いを求めて――。旅する目的は人それぞれ、時々によっても違いますが、移動を伴い、普段の生活圏から離れた場所に自分の身を置くことは、心理的な開放やリラックスが得られたり、あるいは自己の成長につながる学びや気づきが得られる、非常に手っ取り早い手段です。いつもと異なる場所と体験で得られる、とりわけ内面的な効果は、私たち人類が旅に出る、最も本質的な理由ではないでしょうか。 近年欧米では「アドベンチャートラベル(AT)」という旅行スタイルが注目を集めています。アドベンチャートラベルは、旅に出ることで私たちが得られる「学び」や「自己成長」、それによる精神的な健康という、内面的なメリットにより注目した旅の形。「アドベンチャー」という言葉の響きからは、スリル溢れる冒険アクティビティをイメージする人が多いかもしれませんが、実際のアドベンチャートラベルは、必ずしもハードな冒険を伴うものではありません。旅先で日常生活と違う世界に浸り、未知の体験をすることは、それだけで冒険!上質な学びや自己成長が得られるアドベンチャートラベルは、従来の “見る” 観光に飽きた旅の上級者や、旅での消費疲れを感じる方、あるいは子どもへの教育的な観点での旅にもぜひ取り入れていただきたいエッセンスが満載。日本のアドベンチャートラベルをリードする北海道・道東からその魅力を探ります。

「アドベンチャートラベル」とは何か?

そもそもアドベンチャートラベルとは何でしょうか? 世界最大のアドベンチャーツーリズム組織団体であるATTA(アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション)は、アドベンチャートラベルを、「身体的活動(アクティビティ/physical activity)」「自然(natural environment)」「異文化体験(cultural immersion)」の3つの要素のうち、2つ以上で構成される、テーマ性のある旅行スタイルと定義しています。

少し分かり辛いですが、「”身体的活動(アクティビティ)” を通じて、地域独自の ”自然” や ”文化に触れ合う” ことで、旅行者が内面から変わっていく」ことが、アドベンチャートラベルの本質。つまり、その土地で ”身体を動かし” ながら、”自然”、”文化” に触れることで、知識習得としての学びは勿論、創造力や発想の柔軟性を培ったり、自己の価値観やアイデンティティを見つめ直したりできるということになります。

この中で、アドベンチャートラベルの特徴とも言えるのが、「身体的活動/アクティビティ」を重視している点です。単に見聞きするのではなく、その地で身体を動かし、文化・自然を全身で感じるというのが、どうやらアドベンチャートラベルを語るうえで重要な要素と言えそうです。

確かに国内外問わず、価値観が変わるような心を揺さぶられる経験は、身体的なインパクトが伴うものです。例えば、インドを旅し1日中歩き回り、景色はもちろんさまざまな人と関わりながら、文化、宗教、価値観の違いを目の当たりにし、時に心身がズタボロになりながらも全身でその場所が持つパワーに触れたとして、まさにそれはアドベンチャーでしょう。はたまた、ネパールの車ではアクセスできない山岳の里山をトレッキングしながら訪ね歩くのもアドベンチャー。

一方で、「身体的活動」は必ずしもハードな運動を伴うものではありません。例えば、クライミング、スカイダイビング、スキーやスノーボードなどの身体に負荷がかかるハードアクティビティも含まれますが、ウォーキング、サイクリング、バードウォッチング、キャンプといった、誰もが参加できるソフトアクティビティでも、全身でその場所の自然や文化を体験できるような上質ささえあれば、自身の内面へ大きなインプットが得られるものです。

それら、自然や異文化を感じる体験の質を高めるのに貢献してくれるのが、その土地を知り尽くした専門家や、地元の人。知識豊富なガイドが同伴してくれると、学びの角度が一気に高まります。良質なローカルガイドやツアーを上手に活用しながら、アクティビティを楽しみ、文化・自然と触れ合うことがポイントとなってきそうです。

また、近年欧米でアドベンチャートラベルが支持されているもう一つの理由が、「アドベンチャートラベル」を選択することで、結果として、自然環境や地域文化へローインパクトで、かつ地域消費への貢献につながる選択になるという点が挙げられます。旅行者の著しい増加により自然環境や住民生活に悪影響を及ぼしたり、地域にお金を落としているつもりが、実は大手資本の代理店にしかお金が落ちていなかったり―、観光によるマイナスの面が近年特にクローズアップされています。

ATTAは、アドベンチャートラベルを提供するオペレーターや旅行会社、さらには参加する旅行者に対し、環境・社会・地域経済の持続可能性への取り組み強化を求めています。さらに、ATTAの調べによると、従来の大衆旅行としてのマスツーリズムでは、私たちの旅行消費額のうちの14%しか地域に落ちていないのに対し、少人数の個人旅行・グループ旅行がメインで、地元の観光事業者の提供するアクティビティを積極的に利用するアドベンチャートラベルでは、旅行者消費額の約65%が地域に使われることが確認されています。旅をする中で、自分の選択を通じ、訪れる地域経済や地球環境への責任を果たすことは、旅行者の受け入れ側の地元からも支持を受けています。

日本のアドベンチャートラベルの草分け、北海道

日本国内でも、このアドベンチャートラベルの概念に賛同し、地域ならではの深い学びが得られる、ユニークで上質な体験の提供に力を入れている地域があります。中でも、早い段階からアドベンチャートラベルのデスティネーション(旅行先)としてさまざまなアクティビティを提案してきたのが、北海道です。

北海道は、道央・道南・道東・道北4つのエリアに分けられますが、特にアドベンチャートラベルのメッカともいえるのが道東エリア。道東は、ざっくり言うと北海道のほぼ東側半分。北海道の中でも特に豊かな自然と文化が息づくこのエリアは、観光ポテンシャルという点からもアドベンチャートラベルを構成する「身体的活動」「自然」「異文化体験」の3つと相性の良いのは勿論ですが、旅行者自身の「学び」が深まるよう工夫された、上質なアクティビティやガイドの育成に積極的に取り組んでいる点からも注目を集めています。

以下の5つの要素は、アドベンチャートラベルを選択する際にチェックしたい項目。これらにこだわることで、単に “消費する旅” でなく、心身ともにヘルシーで自己成長が得られる旅を楽しむことができます。5つの視点に注目しながら、北海道・道東でのアドベンチャートラベルの魅力を探ってみましょう。

  1. 今までにないユニークな体験(The Novel and Unique)
  2. 自己変革(Transformation) 
  3. 健康であること(Wellness) 
  4. 挑戦(challenge)
  5. ローインパクト(Impact)

亜寒帯気候と火山活動に育まれた道東の自然

東西500km、南北400kmにわたる広大な大地が、太平洋、日本海、オホーツク海の3つの海に囲まれている北海道。山、森、湖、湿地、川などの自然が織りなす雄大な風景は、本州にはないダイナミックな魅力に溢れています。その東側半分にあたる道東は、オホーツク、根室、釧路、十勝の4つの地域から成り、面積は約31,000㎢。関東1都6県の大きさに匹敵するほど広大なこの大地に、4つの国立公園(知床、阿寒摩周、釧路湿原、大雪山の東側)、3つの国定公園(網走、日高山脈襟裳、厚岸霧多布昆布森)を擁します。

2005年に世界自然遺産に登録された知床半島とその周辺海域をはじめ、今も活発な火山活動を続ける硫黄山(別名:アトサヌプリ)、火山が作り出したカルデラ地形には、阿寒湖・摩周湖・屈斜路湖などの神秘の湖、原始の森、噴煙を上げる山や温泉など多様な景色が点在しています。これらダイナミックな自然には貴重な生態系、希少な動植物が生息しているのも特徴。自然界をカムイ(神)として尊い、その恵みと共生しながら暮らし育まれたアイヌ文化が息づいた場所でもあります。

このような、変化に富んだ大自然と文化が息づく道東では、それらを様々な角度から楽しむ多彩なアクティビティが提供されています。ネイチャーウォーク、トレッキング、サイクリング、カヤッキング、湖や沿岸部を巡る各種クルーズは勿論ですが、憧れのトラウトフィッシングや、氷結した湖上でのスノートレックとワカサギ釣り、流氷ウォーク、北の大地のワイルドライフウォッチング、アイヌ文化に触れるアクティビティなどは、この地ならでは。春から秋までと冬の2シーズンに分けると、自然の風景も、出会う動植物も異なり、ネイチャーウォークやカヤッキングをしても、まったく違った体験と楽しみがあります。

よりディープな自然や文化に触れるには、ローカルガイドの案内を受けながらアクティビティを通じ、自然や文化に触れたいところ。北海道では、2023年より、従来の「北海道アウトドアガイド制度」を再編し、グローバル基準のアドベンチャートラベルに対応すべく「北海道アドベンチャートラベルガイド認定制度」が創設されました。これは、山岳、自然、カヌー、ラフティング、トレイルライディング、サイクリング、バックカントリースキー、サイドカントリースキー、スタンドアップパドルボード(SUP)の9分野で、国際基準に準じてガイドの能力を認定するもの。アクティビティのテクニカルスキルやガイディング能力のみならず、安全管理やサステナビリティへの配慮など、旅行者の体験のアドベンチャートラベルの品質を保証する基準となります。新しい認定制度は始まったばかりですが、今後ガイド選びの際の一つの指針となりそうです。

森と湖が織りなす神秘の阿寒のアドベンチャートラベル

ここからは、健康的でローインパクト、自己変革が期待でき、挑戦に満ちた、同等なユニークな体験をのぞいてみましょう。道東観光の中心・釧路から便利にアクセスできるのが阿寒エリア。阿寒湖、摩周湖、屈斜路湖など火山活動によって形成されたカルデラと湖が険しくも美しい自然の景観をなし、ここは日本のアドベンチャートラベルの聖地ともいわれる場所です。エリアの大部分を天然の針葉樹林が覆い、1,500以上もの噴気孔から噴気をあげるアトサヌプリ(硫黄山)の迫力、世界有数の透明度を誇る摩周湖の神秘、世界で唯一のマリモ群生地でもある阿寒湖の豊かな生態系。阿寒の森にはヒグマやエゾシカ、キタキツネなどが生息し、耳をすませば、姿は見えなくても野鳥の鳴き声やクマゲラなどキツツキ類のドラミングが聞こえてきます。何世紀にも渡ってこの森を生活の場としてきたアイヌの人々の暮らしや文化に触れるなど、アドベンチャートラベルを満喫するテーマ性、条件が揃ったデスティネーションなのです。

夏も冬も、さまざまな角度から、阿寒のネイチャーに潜る

誰もが気軽に楽しめる定番アクティビティといえば、ネイチャーウォーク。春から秋にかけてのシーズンと、雪に覆われた冬季とで全く違う世界が広がるのが魅力ですが、徒歩での散策、トレッキングはもちろん、カヤック、マウンテンバイク、スノーシュー、クロスカントリースキー、ホーストレッキングなど様々な角度から自然に触れることができます。1983年より、阿寒湖温泉周辺の森林と市街地を含む美しい景観の保全に取り組んできた前田一歩園財団管理の広大な森では、一般の立ち入りを制限している森へ認定ガイドと一緒に立ち入ることができます。苔類の多い原始性豊かな森をチョークストリーム(穏やかな流れ)の川沿いにトレッキングで散策したり、ミズナラの巨木や動植物との感動的な出会いも。入林時には認定ガイド「森の案内人」の同行が義務付けられているため、ガイドと共に森を寒湖温泉のルーツや巨木、野生動植物などについて解説してもらい貴重な原始の森を体感することができます。

一方、冬の氷と雪は“冒険”に欠かせない要素です。ファットバイクに乗って結氷したひょうたん沼の氷上サイクリングを楽しんだり、スノーシューを履いて、澄んだ冷たい空気を感じながら、雪と氷に覆われた森を歩き、火山ガスがポコッと噴き出すボッケ(泥火山)を訪ねたり、静寂の中で心身ともにリフレッシュすることができるでしょう。

ネイティブトラウトの宝庫でのトラウトフィッシング

通常では体験できないアドベンチャーなら、ネイティブトラウトの宝庫での山釣りはいかがでしょうか。周辺の豊かな森の保水能力によって、多くのミネラルを含んだ清らかな水が流れ込む阿寒湖は、フライフィッシングやルアーフィッシングの聖地。原産のヒメマスや在来種のアメマス、特別天然記念物のマリモなど魚類の既存種12種、淡水藻類259分類群などが報告されています。阿寒湖と阿寒川の釣りの解禁日5月1日ら秋にかけては、釣り三昧の休日を過ごせるベストシーズン。ニジマス・アメマス・ヒメマス釣りは初心者でも手軽に楽しめます。阿寒湖は、2003年に北海道で初めてキャッチ&リリースを遊漁規則化した先進地。現在、阿寒川湖流出口から雄観橋下流端のみキャッチ&リリースエリアに設定されています。遊漁料1日1,500円。

アイヌ文化を知りアイデンティティを見つめなおす 阿寒湖畔には、北海道最大規模のアイヌ集落(アカンコタン)があります。アイヌ民族は、17~19世紀、北海道やサハリン、東北地方の北部に住んでいた民族で、独自の言語や宗教、文化を発展させてきました。独自の信仰や精神文化を持ち、北の厳しい自然環境をたくましく生き抜いてきたアイヌの知恵、生活、信仰、歴史、伝承や言語、芸能――。19世紀以降、日本政府による北海道開拓が進むなか、アイヌ民族は日本への同化を迫られ、住んでいた土地を奪われるなど、不幸な状況に置かれてきました。しかし近年、世界的に先住民族文化を復興する機運が高まるなか、日本でも、アイヌの歴史や文化をリスペクトし、共存共栄を目指す取り組みが動き出しています。

阿寒湖周辺では、アイヌの血をひくガイドと森を一緒に歩きながら、その歴史文化、自然と共生するという世界観に触れたり、森にまつわるストーリーを聞いたり、伝統楽器ムックリの演奏に耳を傾けたり、彫刻にチャレンジしたり。アイヌの人々の自然との距離感などを知ることで自身のアイデンティティを見つめ直し、視野を広げる一助になるかもしれません。

このほか、プロジェクトマッピングなどを駆使した、よりエンターテイメント性の高いアイヌ文化体験のひとつとして注目されているのが、春~秋にかけ開催される「阿寒湖の森ナイトウォークKamuy Lumina(カムイルミナ)」です。阿寒湖温泉に滞在した夕食後のひととき、夏の森に出かけてみましょう。カナダのデジタルアート集団「MOMENT FACTORY」による体験型ナイトウォーク「KAMUY LUMINA」は、夏から秋限定のアクティビティ。光るリズムスティックを杖として手に持ちながら、国立公園内の森の遊歩道を約1.2kmナイトウォークしながらアイヌの神々「カムイ」の物語を辿ります。日没から22時まで、所要時間は約1時間。

太古の自然と野生動物の営みを見る知床のアドベンチャートラベル

海底火山が隆起し、さらに陸地の火山が噴火してできた知床半島は、アイヌ語の「シリ・エトク(大地が果てるところの意味)」を語源とし、神々しいほどの地球の大地の神秘が場所です。海からそそり立つような急峻で険しい連山、豪快な海岸沿い、深い原生林、草原や河川、湖沼などの多様な地形と、海と陸が相互に関連しあうユニークで豊かな地形と生態系が育まれています。オホーツク海沿岸の流氷に代表されるように、知床では冬季と夏季とでは目にする景観もがらりと変わり、異なる体験が楽しめるのもユニークな点です。

野生動物と出会う

手付かずのダイナミックな大自然が残る知床には、アイヌの人々がカムイ(神の意味)と呼ぶヒグマやシマフクロウが生息し、オオワシなどの絶滅危惧種、エゾシカやアザラシといった希少な動物が暮らしています。これらの野生動物との出会いも、普段の生活と離れたユニークな体験です。トレッキング、サイクリング、カヌーやカヤック、リバーウォークなどのウォーターアクティビティを楽しみながら、知床半島沿岸の迫力満点の景観とともに、ワイルドライフの世界に潜ることができます。

アクセスも便利な、原生林の中に点在する5つの湖沼からなる知床五湖でさえ、ヒグマやエゾリス、シカ、クマゲラ、ウグイスなど多くの野生動物が生息し、知床を代表する景色が広がっています。夏季は湖沼周辺に整備された地上遊歩道と高架木道を歩きながら原生の自然を満喫。一方、冬季は湿地帯や凍った湖の上をウォーキング。雪を頂く知床連山を遠望し、白い雪の世界に現れる野生動物がより鮮やかに目に飛び込むでしょう。2~3月のタイミングがあえば、木道展望台の側からオホーツク海の流氷を見ることができます。

また気軽に参加できるワイルドライフ・ウォッチングならナイトサファリもおすすめ。ガイドが運転する車に乗り込み、シカやキタキツネなどの野生動物の夜の生態を観察します。時にフクロウやトラツグミの鳴き声が聞こえてきたり、動物に遭遇できなくても、晴れた日は満天の星空が迎えてくれます。 

一生に一度は目にしたい流氷

冬場の2~3月の流氷シーズンには、オホーツク海を南下してきた流氷がウトロ地区の海に接岸します。流氷観光の基本は、砕氷船に乗ってのクルーズで、それだけでも圧巻の景色が広がりますが、アドベンチャーとラベラーなら海に浮かぶ真っ白な流氷原に自身の足で繰り出してみませんか?流氷ウォークは、専用スーツを着用し、ガイドともに海面に浮かぶ流氷上を歩行するこの時期だけのユニークな体験。小学生以上、ご高齢の方をのぞき誰でも気軽に参加できます。浮かんでいる氷を飛び石のように渡り歩いたり、重なり合った氷を越えて進んだり、刻々と変化する流氷状況によりルートや難易度が変化します。もちろん、流氷とともにやってきたゴマフアザラシや空を舞うオオワシに出会うチャンスも。知床半島東側の羅臼側では、高い確率で越冬するオジロワシなどを観察できるそう。

根室周辺のラムサール湿地での野生動物・野鳥観測アドベンチャー

最後にお勧めしたいのが、釧路や根室周辺のラムサール条約湿地。冷涼で、湿潤な北海道の気候は広大な湿原を作り出し、ラムサール条約に登録された湿地は北海道全体で7カ所を数えますが、道東エリアにはその北海道の湿原総面積の約4分の3が集まっています。水辺の湿地は、野生動物の宝庫。オジロワシやミサゴなどの野鳥、エゾシカ、エゾリスなど野生動物が多く生息しています。とりわけ野鳥は年間を通してさまざまな鳥と出会うことができ、双眼鏡さえあれば、初めてでも気軽にバードウォッチングを楽しむことができます。ネイチャーセンターや、ハイドと呼ばれる野鳥観察小屋を拠点に個人でも観察できますが、鳥の生態に詳しいネイチャーガイドと共にレンズを覗けば、野鳥の世界と北海道の果ての地の四季を、小さな鳥の世界から垣間見ることができます。各地域の観光協会ではガイド手配なども手伝ってくれるので、気軽に問い合わせてみましょう。

雄大な大地を感じる、釧路湿原

日本最大の湿原面積を誇り、釧路駅からは観光バスで約40分とアクセスが良いのが釧路湿原(28,788ha)です。特別天然記念物のタンチョウの生息地であり、渡り鳥の中継地。希少種のオジロワシなど、約1300種の陸生水性動物や鳥類、昆虫類のほか、約700種の植物が生息しています。人工物が目に入らない見渡す限り続く雄大な大地と、風と鳥のさえずりしか聞こえない静寂、手つかずの自然に身をゆだねてみましょう。神秘的な釧路川をカヌー、フィッシング、あるいは遊歩道を歩きながら、ガイドの説明とともに間近に動植物を観察するなど、手の届くほどの近くで自然を体験できます。

荒涼とした砂嘴が印象的、野付半島・野付湾

根室海峡に突き出る野付(のつけ)半島は全長26km、まるで釣り針のような形をした、日本最大の砂でできた半島・砂嘴(さし)です。

潮風にさらされ、海水による浸食で枯れて無くなりつつあるトドマツ、立ち枯れたミズナラなど、荒野の果て感と、厳しい北の大自然を目の当たりにする風景が印象的。5月下旬から10月頃には、エゾカンゾウやクロユリなど、季節ごとの花々が咲く原生花園が広がります。渡り鳥の大規模飛来地であり、自然ガイドの説明に耳を傾けながら遊歩道が歩き、荒涼とした砂嘴の風景や野生の動植物ウォッチングなどを楽しみましょう。

標高3mの砂嘴は、年に1cmずつ地盤沈下をしており、300年ほどで海底に沈むと言われています。平原に広がる360度のパノラマは、知床、オホーツク海、野付湾、その向こうの斜里岳が眺められる絶景。夕日スポットとしても知られており、心に響く光景に出会えます。

バードウォッチングのメッカ、風蓮湖・春国岱

北海道の東端、納沙布岬(のさっぷみさき)のある根室半島の、付け根部分に広がる風蓮湖(ふうれんこ)・春国岱(しゅんくにたい)。風蓮湖と根室湾を分ける砂州である春国岱はアイヌ語の「シュンク・ニタイ」(エゾマツ林)が由来で、地名そのままに、砂丘に自生する日本唯一のアカエゾマツ林で覆われています。高山植物や塩生植物、多くの種類の野鳥などが暮らしています。

ここで待っているアドベンチャーは、自然ガイドの案内でネイチャーウォークをしながら塩性湿地や干潟、森林や草地などの自然とふれあいます。ここは野鳥の楽園でもあり、日本で観察された野鳥の半分以上となる約360種もの野鳥が観察されるなど、バードウォッチングの聖地とも呼ばれています。年間を通じ様々な野鳥や草花がみられますが、サハリンなどから飛来するオオワシが飛来する1月にはバードランドフェスティバルも開かれます。

環境への負荷を最低限にするために、公共交通機関利用のススメ

最後に交通事情について。北海道旅行の足といえばレンタカーがポピュラーですが、環境へのローインパクトを考えるアドベンチャートラベラーとしては、公共交通機関での移動をぜひ心掛けたいところ。そこで、おすすめしたいのが、地元バス会社である阿寒バスの運行する、乗り降り自由のガイド付き定期観光バス。従来の鉄道・路線バスでは繋ぐことが難しかった観光のハイライトルートを結びます。原則は春/夏~秋の運航ですが、冬季運行がある期間もあり、冬場は特に路面凍結や雪道などの運転に慣れていない人にとっても安心の選択肢です。

この定期観光バスは、環境への負荷が最小限であることに加え、地元を知り尽くしたガイドが同乗し、道中、ふんだんな知識を交えながら、阿寒国立公園の自然やアイヌ文化について解説してくれるのが大きな魅力。自分達だけでは得られない知識を得て理解を深めることは、まさにアドベンチャートラベルの1つの大きなキーワードでもあります。

阿寒・知床、双方のエリアを跨いで旅するなら、釧路~ウトロ間を、1日1便・双方向で運航するガイド付き観光バス「釧路知床号」「知床釧路号」の利用が便利。阿寒摩周国立公園のいくつかのスポットを経由して所要約10時間半かけ結びます。途中、阿寒湖、摩周湖、硫黄山、砂生、美幌峠など、主要観光スポットのビューポイントや道の駅に立ち寄り、20~30分ずつ停車してくれます。摩周温泉、川湯温泉、屈斜路湖、網走などの主要バス停間での区間乗車も可能なので、アドベンチャートラベラーなら、数日かけ、途中のスポットに滞在しアクティビティを体験しながら、のんびり旅路を進めるのがおすすめ。空港や主要駅から乗降が可能です。

阿寒エリアのみの旅なら「ピリカ号」も利用できます。こちらは、釧路湿原、摩周湖、硫黄山、屈斜路湖、阿寒湖を反時計回りに巡り、釧路空港を経由して釧路駅前に戻る約9時間のコース。阿寒湖での下車はできますが乗車はできないため、阿寒湖温泉に滞在し2日目釧路に戻る際には、路線バスか釧路空港の連絡バス「阿寒エアポートライナー」を使いましょう。

道東ならではの自然の成り立ちや、そこに住む人間の営みに思いをはせながら、体験に挑戦することで、身体をほぐし、内面的にも新たな学びを得ることができます。アドベンチャートラベルの視点を取り入れて旅することで、旅の中で自身へのインプットを増やし、成長につながるきっかけを得てみましょう。