岡山県備前市 × SDGs

アマモ場を再生する瀬戸内・日生の海からSDGsを考える

海のブルーカーボンが育む海

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“アマモ” という水草をご存じですか? 水深10m未満の太陽光が届く、浅く波が穏やかな砂地に生える海草で、魚介類の産卵や幼稚魚の生息場となるほか、根から赤潮の原因物質を吸収することで水質改善の機能も果たしています。海洋環境にとって必要不可欠な役割を果たすアマモですが、近年、気候変動を緩和する生態系としても期待を集めています。 人類が地球で暮らし続けるために2030年までに達成すべき17の目標=SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連総会で採択されたのは2015年9月のこと。さらに同年12月に締結された「パリ協定」の枠組みのもと、現在、日本を含む多くの国が2050年までに脱炭素(カーボンニュートラル)社会を目指しています。炭素を削減するためには、再生可能エネルギーへの切り替え、緑化やネガティブエミッションと呼ばれる技術により大気中の炭素を吸収することが必要ですが、海中に生息しているアマモが、大気中の炭素を吸収・固定する「海のブルーカーボン」としての役割を果たすことが注目を浴び始めたのも、時を同じく2015年頃からです。 そんなアマモ場の再生に30年前から取り組んでいるのが、岡山県の瀬戸内海に面した日生(ひなせ)です。岡山県南東部、備前焼の陶器でもよく知られる備前市日生町の豊かな海の物語を、サステナブルな視点から紐解いていきましょう。

アマモが育つ瀬戸内海・備前日生の海

瀬戸内海国立公園の海に開け、岡山県と兵庫県との県境に位置する日生(ひなせ)諸島は、大小13もの島々が点在する島嶼エリアです。入り組んだリアス式海岸の入り江は穏やかな海域を作り出し、さらに浅瀬が続くため、燦々と降り注ぐ瀬戸内海の陽光が、海草の一種であるアマモを育て豊かな海の恵みを育んできました。

緑も豊かな穏やかな日生の海

アマモは海草の一種で、見た目は緑色の稲に似ています。ワカメや昆布などが根・茎・葉の区別がなく胞子で繁殖する「海藻」であるのに対し、アマモは根・茎・葉が分かれ、花を咲かせ種子によって繁殖する「海草」です。水深1mから数メートル程度の沿岸砂泥地に自生し、緑色のアマモがたくさん生息しているところを「アマモ場」と呼びます。アマモ場は小さな生き物の棲み処であり、魚、貝、エビ、カニなどなどの魚介類が産卵し、稚魚が天敵から身を隠せる生育の場、魚たちのエサ場にもなっています。また光合成により海中に酸素を送り、水質や底質を浄化、安定させる役割も担います。

海中で花を咲かせる海草アマモ
海を守り育てるアマモ場は「海のゆりかご」とよばれています

海洋環境の改善だけでなく、気候変動にも貢献するアマモ

そんな「海のゆりかご」であるアマモが、近年世界的に注目を集めているのは、アマモが環境に果たすもう一つの機能「ブルーカーボン」としての役割からです。ブルーカーボンとは海域の生態系による、炭素を吸収・固定する機能のこと。2009年にUNEP(国連環境計画)によって定義された言葉です。それまで生物によって吸収・貯留される炭素は一律「グリーンカーボン」と呼ばれていましたが、森林など陸域のものをグリーンカーボン、海域のものをブルーカーボンと区別するようになったのです。

ブルーカーボンは、沿岸海域における生態系で(1)マングローブ、(2)塩性湿地(干潟など)、(3)海草藻場の3つに区分されます。そのメカニズムを簡単に説明すると、海草や植物プランクトンは光合成などで、”大気中” のCO2から炭素を取り込みます(=炭素の吸収)。海域なのに大気中のCO2を吸収するというのは、マングローブは想像がつくかもしれませんが、海草藻であっても、潮が引き藻が海面に張りついたような状態の際に、大気中の炭素を吸収できることが分かっているのです。

このようにして吸収された炭素の一部は、植物連鎖の過程で、より上位の動物により大気中にも排出されますが、やがて枯死したブルーカーボン生態系は深海に沈降し、海底の堆積物に取り込まれることで、長期間水中に貯留されます(=炭素の固定)。 

出所:水産庁、独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 「藻場・干潟の二酸化炭素吸収・固定の仕組み~プルーカーボンの評価~
出所:水産庁、独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 「藻場・干潟の二酸化炭素吸収・固定の仕組み~プルーカーボンの評価~
海面近くのアマモは大気中の炭素を吸収します

2019年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「海洋・雪氷圏特別報告書(PDF)」では、世界全体のブルーカーボンの気候変動緩和ポテンシャルは、世界全体の温室効果ガス排出量の0.5%を相殺すると評価されています。ブルーカーボン生態系は海洋面積の1%程度と狭いエリアですが、グリーンカーボンに比べ貯蔵効率が高く、”吸収” された炭素の約8割が大気中に放出されず “固定” されると言います。海草藻の生息する一帯では、熱帯林のおよそ25倍、マングローブ林では熱帯林の40倍以上も炭素が蓄積できるとの研究結果もあるほどで、いま世界中でその保全が求められています。

暗い海からの再生と育てる海の森、日生の海の歴史

727もの島々が点在する瀬戸内海には、穏やかな浅瀬が多く、アマモ場も多くがあります。そのうちの一つ、備前市日生町はリアス式海岸を利用した良港を持ち、古くから漁業と海運業が栄えた場所。1945年頃、日生の海には約590ha(5.9km2)ものアマモ場が広がっていたと記録されています。

かつて日生漁港の近くにの丘の山頂からは、透明な海の色、群れた魚の魚影、そしてアマモ場といった3つの異なる色を眺められたそうです。魚の群を見つけたら、山頂から旗を振って漁師に合図を送り、魚の群れを囲いこむという漁法も生まれたほど。また「つぼ網漁」と呼ばれる、小型定置網で水深22~3mの浅い海で行われる漁も、日生が発祥の伝統的な漁法です。岸から沖へ向かって網を張り、その先に竹を立て仕掛けた袋網へと魚を誘い込む “待ちの漁法” で、魚にストレスがかからず傷もつきにくいため美味しく、高値で取引されるのが特徴です。明治から昭和初期にかけ、町民の大半が漁業に従事し「日生千軒漁師町」と呼ばれ、日生の漁業は隆盛を極めていました。

日生漁港浦手の「みなとの見える丘公園」から見下ろした日生の海
「みなとの見える丘公園」からの日生のまち並み
つぼ網漁の仕掛け

ところが、1955年頃から日本の高度経済成長の波が日生にも押し寄せてきました。瀬戸内海沿岸部では大規模なコンビナートが運用されるなど、日生の海は徐々に変化し、漁獲量が減っていきました。漁師たちは、漁獲量を補うため、牡蠣や海苔の養殖を始めたほか、高値がつくクルマエビの稚エビを海にまくなどして栽培漁業を始めたものの、いっこうにクルマエビは育たなかったそう。約10年もの間、試行錯誤を繰り返したものの漁獲量は増えず、伝統的なつぼ網漁の漁家も、最盛期の1955年には30軒あったのが、1970年代後半には19軒まで激減していました。

漁師や地元の人々が守り続ける日生の海 

そんなあるとき、つぼ網漁師が、クルマエビの育成不良とアマモ場の面積との関連に気づきました。1985年頃のアマモ場は、豊かな漁獲量を誇っていた頃の50分の1、わずか12ha(0.12km2)にまで激減していました。もちろん、藻場が大幅に減ったことについて、代々家族経営で日生の沿岸海域を知り尽くしたつぼ網漁師たちは、以前から気づいていました。しかし、漁師にとってアマモは舟の漕具である櫓(ろ)やスクリューに絡んだり、魚を獲る網の目に詰まったり厄介な存在で、むしろ喜んでいたのです。しかし稚エビをまいても隠れ場がなくては魚の餌になるだけ。アマモ場の減少が漁獲量にどのように影響するか、科学的な根拠はないもの、漁師たちは皆、経験からそれを理解し、自らアマモ場を復活させることにしたのです。

1985年、岡山水産試験場がアマモの種子採取技術を実用化し、日生町漁協は全国に先駆けてアマモ場再生活動を始めました。岡山県の指導を受けながら、わずかに残っていたアマモの種を採って海に蒔くことから始め、海の底質を改善するなどの試行錯誤しながら、辛抱強く活動を続けました。研究者や消費者団体、漁師の高齢化に伴う人手不足のため地元の中学生や、全国の高校生や大学生らも加わってアマモ再生に地道に取り組み続けました。

海中で花を咲かせる海草アマモ

幾度もの失敗と試行錯誤を重ね、20年以上経った2008年頃から、アマモ場が急速に回復し始めました。2015年頃にはその面積は、かつての15倍にあたる250ha(2.5km2)以上にまでなり、それでも最盛期の半分程度ではありますが、見事にアマモ場の再生を成し遂げたのです。県や市を巻き込んだ取り組みが、ブルーカーボンとしての海の森を育て、豊かな里海(さとうみ)づくりへの道筋をたて、長年にわたる漁師たちの活動や経験はいま、日生から日本各地へ受け継がれようとしています。

牡蛎イカダが点在する日生湾

 

日生の海から、リアルなSDGsを学ぶ

日生エリアは、周辺の島での海水浴、釣りなどのレジャー、海の幸を堪能できる民宿も多数あり、海と漁業と自然に触れる旅が楽しめる場所でもあります。アマモ場は、日生の海岸線からいつでも眺めることができますし、「島まるごと海が楽しめる」がコンセプトの頭島(かしらじま)では、海洋と地球環境を五感で感じられる沢山の体験プログラムが用意されています。単に観光地を訪れる旅ではなく、学びの得られる旅は、「場所を変え、日常では気づけない発見に出会う」という、旅というものの醍醐味を真に感じられるもの。家族で一緒に地球環境について考えてみたり、夏休みの自由研究テーマで訪れてみるのもよさそうです。

アマモや日生の海や通じて、海洋環境やSDGs、カーボンニュートラルなど地球環境に少しでも興味を持った方へ、SDGsの13のテーマとかけ合わせながら、日生での活きた体験を覗いてみましょう!

出所:ユニセフ「SDGs CLUB」

「ひなせうみラボ」を拠点に、頭島で島まるごと海の体験

2 飢餓をゼロに|4 質の高い教育をみんなに|11 住み続けられるまちづくりを|12 つくる責任、つかう責任|13 気候変動に具体的な対策を|14 海の豊かさを守ろう

日生での海の体験の拠点となるのが、大小13の島からなる日生諸島のなかで、最も人口の多い頭島(かしらじま)。車で訪れることができます。「島全体が海の体験ができるラボ」と呼ばれる頭島は、日生の海を存分に楽しみ、同時に持続可能性や自然環境を考えるアクティビティやきっかけが散りばめられています。その中心となるのが、島の北西部にある「ひなせうみラボ」。日本財団が推進する、海辺のさまざまな活動の拠点を整備する「渚の交番プロジェクト」の一環で、2021年9月にオープンした施設です。

ひなせうみラボ外観
なせうみラボ全景

ひなせうみラボは、日生の取り組みを全国に広げ、「海との共生」を学ぶ、海洋教育・海洋体験・海洋体験・海洋研究の拠点になることを目指しています。ラボでは年間を通して、海洋体験プログラムを提供しており、アマモ場再生や海洋ゴミ問題、海の生物観察、漁業体験、調理体験、シーカヤック、シュノーケリングなどなど、多彩な学びの場が提供されています。レストランやお土産&産直売り場も併設され、ラボの隣には多目的公園やグランドゴルフ場が整備されており、地元の人とラボを訪れる人との交流の場の役割も果たしています。各体験プログラムは事前予約制なので事前にウェブサイトから確認を。

アマモ場の再生の現場を見て、そして再生に参加する

13 気候変動に具体的な対策を|14 海の豊かさを守ろう

海の生き物たちの棲み処にもなっているアマモ場

カーボンニュートラルが、私たち人類の直面する切迫した課題である中、日生を訪れアマモについて学ぶことは気候変動の問題を考える良い機会になるでしょう。アマモの見学自体は、頭島、鹿久居島(かくいじま)、大多府島(おおたぶじま)などの沿岸に繁茂場所がいくつもあり、一年中見ることができます。またひなせうみラボではアマモの生態をはじめ、日生の海でいかにアマモ場を回復させてきたかなどについて学べる展示もあります。

また、5~7月、9~10月に日生を訪れた場合、船からのアマモ場の見学や、再生活動に携わる機会も提供されています。アマモは、夏の暑い時期は葉を枯らして地下茎で生き残り、秋になり涼しくなると、地下茎の先端から新たな葉が出て、秋から春にかけて成長します。このため、アマモが育つタイミングによって体験できるプログラムが異なります。

9~10月: アマモの選別・種まき

秋の発芽の時期、アマモの種を採取して選別し海に蒔く体験ができます。アマモの種の採取は、アマモから花枝という種ができる部分を採取し、熟成させることで行われます。体験は陸上で熟成した種から余分な葉や中身が入っていない種を取り除き選別し、船上から種まきを行います。

アマモの種子選別作業の様子

4~7月: アマモ場観察・カキ養殖漁業見学

4月になると、種子から発芽したアマモは、約10~15cmの大きさになります。7月初旬まで成長を続け、大きなものでは2mほどにもなります。体験では漁協や地元の漁師が協力し、船から海の中で育つ緑のアマモの生育状況が観察できます。カキ養殖漁業も見学しましょう。

船の上からアマモ場が見えます

5、6月: アマモ流れ藻回収

大きく生育したアマモは、波にさらわれ流れたり、養殖用の筏(イカダ)などに絡まってしまいます。絡まったアマモを解いたり、回収する体験は、豊かなアマモ場の保全と漁業を行う上で欠かせない作業です。船に乗って筏にアクセスし、作業を行います。

絡まったアマモの回収は重要な作業のひとつ
漁師さんに手ほどきを受けながらアマモを回収します

名物「カキオコ」や海鮮BBQを賞味し、食から海を考える

2 飢餓をゼロに|12 つくる責任、つかう責任|14 海の豊かさを守ろう

アマモを見学した後は、アマモがもたらす海の恵みを食で体験しましょう。何と言っても外せないのは「日生がき」。実は、日生の牡蠣とアマモには、深い関係があります。アマモ場の再生をスタートさせた当初、海底のヘドロに阻まれて植え付けが上手くいかなかったところ、牡蠣殻を海底へ沈めた上にアマモを植えることで、アマモの場の拡大に成功したのです。また、牡蠣は通常2年かけ生育しますが、日生の牡蠣はアマモにやってきた小魚を食べることで1年で大きく育ちます。1年物の牡蠣は若くて弾力に富んだ身を持ち、加熱しても縮みません。殻を開けると大粒の身がぎっしり詰まっています。

牡蠣の水揚げ ©岡山県観光連盟
1年で大きく育つひなせ牡蠣
ぷりぷりの身がたまらない

日生の海で育ったプリプリの牡蠣を食べるのに当地グルメとして人気なのが、牡蠣入りお好み焼き「カキオコ」。シーズンは10月下旬~3月下旬頃。島に渡る前、本土側の日生駅や日生漁港近くにお好み焼き店が集まっており、ぜひ本場の味をアツアツで。店ごとにオリジナルアレンジがあるので、好みのカキオコを見つけてみて。なお牡蠣のオフシーズンである夏場は、冷凍牡蠣を使ったカキオコが味わえますが、近海から水揚げされた地物海老を使った夏ならではの「エビオコ」も見逃せません。

人気抜群のご当地グルメ、日生カキオコ ©岡山県観光連盟

次に、日生町漁業協同組合の海産物直売所「海の駅しおじ」で楽しめるのが海鮮バーベキュー。隣接する「五味の市」で、新鮮な牡蠣や海鮮、お惣菜などを購入し、バーベキュー施設で豪快に焼いて賞味します。食材の持ち込みも可能。こちらも牡蠣のシーズンは特に賑わいを見せます。近海でとれるさまざまな海の幸を見て、触って、食して、海洋の豊かさをまるごと体験するとともに、SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」でも掲げられているフードロス削減についても考えましょう。バーベキューの利用は、事前予約が必要です。

海の駅しおじで海鮮バーベキュー ©岡山県観光連盟
五味の市では新鮮な牡蠣をはじめ地元の魚介が並ぶ ©岡山県観光連盟

頭島で楽しく海のゴミ問題を考える

12 つくる責任、つかう責任|14 海の豊かさを守ろう

日生漁業組合は早くから環境意識に敏感で、高度経済成長期以降、周辺の島でリゾート開発、原子力発電所や火力発電所などの建設計画が持ち上がるたびに、海の自然環境を守るために反対し続けてきました。また、つぼ網の漁師らは1960年代から、海洋ゴミの回収や標着ゴミを持ち帰るといった地道な取り組みを行ってきました。現在も日生漁業組合では、年間を通して、中学生や学生ボランティア協会と協力して、海洋ゴミの収集活動を実施するなど、積極的に海の環境保全に取り組んでいます。

ゴミ拾い自体は誰もがいつでも取り組める活動ですが、日生では船を使って海洋ゴミを回収する機会もあります。これは年に数回行われており、陸路でのアクセスが難しい海岸や島などへ船で回り込んでアクセスし、浜へと上陸して海洋ゴミの収集活動を行います。中学生から大学生までを対象に海洋ごみ回収ボランティアを募集しており、ひなせうみラボのウェブサイトで確認できます。

ボランティアが浜辺に流れ着いたゴミを回収

また、ひなせうみラボでは、海のゴミを使ったアートクラフトも体験できます。海岸などに流れついた流木やシーグラス、貝殻、あるいは海ゴミと呼ばれるペットボトルのキャップなどを拾って利用し、ハーバリウムやオブジェクト、写真フレームなどを作ったり。貝殻やカキ殻にパラフィンや蝋を入れてクレヨンで色付けする貝キャンドル(10~12月)や、英字新聞と使わなくなったシートを使った再生エコバックを作ったり。小学生から大人まで家族みんなで、楽しみながらゴミ問題を考えてみましょう。

楽しみながら海洋環境について学ぶアートクラフト教室

漁業体験

12 つくる責任、つかう責任|14 海の豊かさを守ろう

夏場(5~9月)は、日生で古くから行われてきた漁業を体験する、底曳き網漁、遊漁船体験があります。地元漁師と一緒に気持ちの良い潮風を受けながら、穏やかな海へと繰り出します。

SDGsの目標「14. 海の豊かさを守ろう」では、海と海の資源を保全し、それらを持続可能な形で利用することを目指しています。現在、漁業においては違法漁業や過剰漁獲の問題を抱えています。国際連合食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖白書2020」によると、2017年時点で世界の水産資源の34.2%が持続不可能な水準、つまり「獲られすぎ」とされています。消費者としても、「サステナブルシーフード」と呼ばれる、持続可能で環境に配慮した漁業、養殖業による水産物を選ぶことや、不漁の資源を過剰に求めないなどちょっとした心がけが、海洋資源の保全に繋がります。

日生では漁協が禁漁区を設定して底引き網漁を行っており、混獲(対象としていない魚や海洋生物の意図せぬ漁獲)や生物の生息破壊などの問題に対し、配慮しながら漁を営んでいます。漁業体験は、網を取り付けた船が海を航行し、その大きな網に魚貝がひっかかり一網打尽に獲るダイナミックなもの。大小さまざまな魚たち、ヒトデなど食べられない海の生き物も網にひっかかり、漁師さんが選別してくれます。この他、魚と一緒に地引網に引っかかった海ゴミを観察することも地球環境を考えるなかで貴重な体験となります。

大人から子供まで誰もが楽しめる底曳き網漁体験

底曳き網漁体験で獲れた魚は全て持ち帰ることができる一方、もし自分たちで食べきれない漁獲があった場合、海に戻したり、漁協を通じ直売所に流通させるなど、フードロス削減にも配慮したいところ。日生で水揚げされる底曳き網漁での漁獲は100%すべて、「海の駅しおじ」隣の魚直売所「五味の市」で売られ、地産地消のシステムが出来上がっています。船のチャーターは1時間3万円からなので、家族や友人同士で1隻借り、魚釣りとはまた違った、海洋と私たち人類との共生について深く考えてみてはいかがでしょう。

日生漁協の直売所「五味の市」には底曳き網漁で採れた水産物が並ぶ

日生の暮らしを感じ、島をまるごと楽しむ

11 住み続けられるまちづくりを|14 海の豊かさを守ろう

SDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」は、年配者や障がい者らも含めたすべての住民が安全で快適なまちに住み続けられるようにすることを目指しています。便利かつ安全で、持続可能なまちづくりを進めること、そして今あるまちの生活を守ることが目標です。日生の町、そして島々を巡ると、海と人とが寄り添った、豊かな暮らしに出会うことができます。もちろん、アマモ場や牡蠣の養殖いかだもそこかしこに顔をのぞかせます。

多島美が美しい日生の海 ©岡山県観光連盟

日生駅のある本土から、「備前♡日生大橋」を渡って最初にアクセスできるのが、鹿久居島(かくいじま)。周囲28km、日生諸島で最も大きな島でありながら、そのほとんどは緑豊かな国有林に覆われ、野生の鹿が多く生息するなど特別鳥獣保護区にも指定されています。SDGsの「住み続けられるまちづくりを」のゴールには、自然遺産・文化遺産の保護・保全を強化するというターゲットが定められていますが、島の人口はわずか数人。島内には海と自然に囲まれたキャンプ場があり、ビジターたちが森と海に囲まれた暮らしを体感できます。

備前♡日生大橋と鹿久居島 ©岡山県観光連盟

鹿久居島からさらに頭島大橋を渡ってアクセスでき、ひなせうみラボもある頭島は周囲4km。潮風を受けつつ潮の香りを楽しみながら、てくてく徒歩で島歩きをしたら、島ののんびりした暮らしを垣間見ることができるでしょう。うみラボで電動アシスト付き自転車をレンタルして島を巡ることもできます。頭島のたぬき山展望台から眺める穏やかな瀬戸内海の多島美、牡蠣の養殖イカダが浮かぶ風景は、海洋と人々の暮らしの営みが混ざりあった素晴らしい眺め。展望台近くにある遊歩道には桜並木があり、春には彩りを添えてくれます。また、柑橘類がたくさん栽培されているのも頭島の魅力で、季節によっては柑橘類の甘酸っぱい微かな香りを感じることも。島の南側には外輪海水浴場があり、まるでプライベートビーチのように穏やかな海と砂浜が続き、島の東側では磯釣りもできます。キャンプ場や民宿、ペンションなども点在しているので、島時間に浸り海を近くに感じながら、海洋への理解を深めましょう。

頭島から別荘の建ち並ぶ鴻島方面を望む
自転車のレンタルはひなせうみラボ窓口や電話で申し込みできます

車でアクセスできるのは、この2島で、その他の島は、大生汽船のフェリーや観光船「NORINAHALL(のりなはーれ)」、海上タクシーを利用し訪ねることができます。

SDGsのもと、人類が2030年までに気候変動、貧困、飢餓、不平等、紛争などの深刻な問題を克服するためには、一人ひとりができることから始める必要があります。しかし、アクションを起こすためには、それらの問題への正しい理解や学びが不可欠です。備前・日生の豊かな海は、地球環境や海洋問題について学び、行動するきっかけを与えてくれる場所。私たちは、地球全体の視点から、自分たちにできることを考え、実行することがいま求められています。

取材協力: 備前観光協会